もう一つの自発と他発

実はこの自発と他発に関しては私のDANCE人生の中の深い「思い入れ」があるのです。

私は英国留学するまでは「ダンスというのは一体”どうやって”踊ればいいんだろう?」と始終自問自答していました。

所謂「How to DANCE?」を探していたわけなのですが、留学してみて驚きそして当惑しました。

何故なら「どうやって」のきっかけさえつかめないのです。

それはそうでしょう。

「こうかな?」「ああかな?」では自分の行動の「正否」のみにしか目が行ってなかったことになるわけですから。

私は留学に際して人体に関する解剖学や鍼灸学等あらゆる下準備をして行きました。

そして鍼灸学校の先生から「もう行っても大丈夫だよ」とお墨付きをいただき、我が師匠の世界10ダンスチャンピオンの鳥居先生夫妻に同行してもらい意気揚々とノルウェーそして英国と乗り込んだのです。

しかし一回目の留学では理解の「きっかけ」さえつかめませんでした。

私の頭はfull回転してショートし帰国後一週間は高熱で動けませんでした。

その時に出した結論が「そもそも学ぼうと言うのがおこまがしい」「一から現地に溶け込もう」でした。

それから英国にアパートを借り年三回の留学期間はDANCEのレッスンを受けたり夜練習会に参加するだけではなく、時間があれば町に出かけ「ヒューマン・ウオッチング」を試みました。

それから3年の月日が経ち、ある時コーチャーのハンス師から「お前の神は何だ?」と問われ即答出来ない自分に気が付いたのです。

私にとって宗教的なものはタブーだったので「あ、ここだけは勉強してこなかった」と愕然としました。

それから仏教・神道・古神道・陰陽道・道教・チベット密教・キリスト教・イスラム教・ユダヤ教他ありとあらゆる「世界宗教」を勉強し、ある時気が付いたのです。

「あ、DANCEにはその基礎にヨーロッパキリスト教文化が潜んでいる(自分にとって)」「それも旧約聖書にこそその出典がある」と。

つまり「自分以外のものに動かされる」という「他発」行為というものが存在することに気が付いたのです。

それからDANCEにおける「多発」行為を勉強し「日本の競技選手にKAWASAKIというおかしな奴がいる」「あいつはほかの日本人と違って誤魔化せないから気をつけろ」「あいつは俺たちと同じ英国ファミリーの血を持っているぞ」とまで噂されるようになりました。

私は日本においてこの「多発」行為をDANCE教授の基礎に据えました。

しかし今までいた生徒や教師は私の元を去っていきました。

それはそうでしょう自分を顧みても「自発」行為しか知らない日本人に「他発」行為の重要性をどうやって説明し納得させることが出来るというのでしょう。

私の日本における異端生活はその頃から始まったのです。

その頃の私は「留学先へ帰国する」という可笑しな感覚に囚われていました。

それは当然でしょう。

ヨーロッパという「他発」文化の地の方が「他発」を重要視している私にとって住みよいに決まっていますから。

それから20年の歳月が流れ、気の遠くなるような日々の修業や研究の結果、やっと「自発」それも「理想的自発」にたどり着きました。

だから自信を持って公言します。

「自発からは他発は生まれません」

「多発からのみ自発に至る道筋が存在するのです」

ここから日本の現状を見渡しますと、全ての分野において、「自発国民の苦悩」が見えてきます。

キリスト教文化圏だけでなく所謂「宗教文化圏」の「他発」人間が「世界」をリードしているこの時代に、「無宗教文化圏」の日本に住む「自発」人間が進むべき道は「存在するけど理解出来ない道」なのです。

それでも私は一生かけてこの道の重要性を説き続けていきたいと思います。